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ペルシア語のすゝめ



 イランとイラクって紛らわしいですよね。このブログを読んでくださる方が間違えることはないでしょうけれど、地理的に隣国同士ですし世間一般では区別がつかない方も多いと思います。それでもって「イラクはアラブ人でイランはペルシャ人」という風に違いを説明するわけですが、そもそも何でこのふたつの国名が紛らわしいのでしょう。

 まずはWIKIでそれぞれの国を調べてみます。歴史だの政治だのの本文ではなく、モバイル版だと『文A』の様なアイコンが左上にありまして、これをタッチすると各国語でのリンク一覧が出てきます。この機能、辞書に載ってないような地名や専門用語などを調べるのに非常に重宝します。

 これを見ると、イラクについては『IRAQ』か『IRAK』と表記する言語のふたつにおおよそ分かれています。主だった所だと英語やイタリア語では『IRAQ』ドイツ・フランス・スペイン・ロシア語では『IRAK』表記です。イランについてはほとんどの言語が『IRAN』の表記です。いずれにしても1文字違い。ローマ字・キリル文字を使う人々にとっては日本人と同様、イランとイラクは紛らわしいことでしょう。

 それでは次に当のイラン人は自国をどう書くのでしょう。イランはペルシア語、イラクはアラビア語ですが、使う文字はどちらも右から左に読むアラビア文字です。ペルシア語の場合はアラビア文字に数文字を追加したものを使用します。

イランは ایران イーラーンと読みます。

イラクは عراق エラーグ(「エ」と「グ」は喉の奥から出す音)。

 「イーラーン」と「エラーグ」ですので両者は似ていません。文字もرا「ラー(ra)」の部分を除いて異なります。ですのでイラン人にとって(そして多分アラブ人にとっても)イランとイラクが紛らわしい、というのは理解できないことだと思います。

 なぜ日本語で「イーラーン」や「エラーグ」ではないのか。それはカタカナで書く外来語のほとんどが西洋言語からのもので、日本人にとって馴染みの少ない地域の言葉はほぼ英語からのある意味“孫訳”になるからでしょう。

 ペルシア語の長母音「アー」とか「イー」とか「ウー」は長母音専用の文字があるので区別が容易ですが(逆に短母音は例外を除いて表記されない)、英語表記だと短母音「ア」も長母音「アー」もどちらも「a」という表記をするので、実際に元々の言葉でどう読むのかは文字を見ただけでは分からなくなってしまいます。

 さらに日本の新聞・テレビ等でイラン関係の固有名詞を表記する際、とかくこの長母音を記載しない傾向が強いのです。ペルシア語は長母音を使う頻度が非常に高い言語であるにもかかわらず、カタカナペルシア語では長音符「ー」を省いてしまうので、ペルシア語特有の柔らかな語感が全く伝わってきません。

 新聞・テレビでは英語の元記事から日本語に翻訳するでしょうから、ペルシア語の固有名詞の読み方が英語を介したことで、別物になってしまうのはやむを得ないことかもしれません。

 しかしペルシア語をかじった後では「イラン」「テヘラン」位なら、すでに日本語になっているレベルなので気にならないとしても、「シラーズ」あたりからちょっと違和感を覚え始め、「ハメネイ師」とか「ロウハニ大統領」とか「ライシ大統領選候補」など、事が人名に及んでくると、どうにも気持ち悪くてしょうがありません。それぞれをなるべくペルシア語に忠実に表記すると「シshーラrーズ」「ハーメネイー」「ロrウハーニー」「ラrイースィー」です。ちなみに同じペルシア語の国、アフガニスタンの首都「カブール」はせっかく「ー」がついているのにもかかわらず、完全に誤まりで「カーブル」が正しいです。本来は「アフガニスタン」も「アフガーネスターン」なんですけれど。

 「グルジア」を「ジョージア」に修正させた在日ジョージア大使館に倣うわけではないですが、イラン大使館にも頑張ってほしいものです。


(東芝の看板@テヘラン توشیباと書きます。)

 そしてここからやっと絨毯の話になるわけですが、これまでの例にもれなく絨毯関係の語句も、イランでカタカナペルシア語のまま話したら「?」という顔をされてしまうこと間違いなしなのです。

 以下左が日本語風の表記、右がペルシア語風に表記してあります。

①絨毯産地名

タブリス ~ タブリrーズ

カシャン ~ カーシャーン

ナイン ~ ナーイーン

ケルマンラバー ~ ケルマーン・ラーヴァル

ビジャー ~ ビージャールr

ハマダン ~ ハマダーン

ザンジャン ~ ザンジャーン

マラゲ ~ マラrーゲ(ゲは喉の奥から出す音でかなり濁る)

マラヤー ~ マラーイェルr

ホラサン ~ ホラrーサーン

 ペルシア語のRははっきりと巻き舌で発音します。しかし英語から日本語にする際に語尾のrが落ちてしまいがちです。それにしてもマラヤーはひどい。確かに英語だとMalayer でしょうけれど・・・。

 実は当店のホームページ上の産地の表記についても悩むところです。例えば一般的に多い表記である「ナイン」をペルシア語に倣い「ナーイーン」にしてしまうと、お客様がグーグル等の検索エンジンでお調べされる際に不便になってしまうからです。

村産地レベルのところでは

ギアサバド ~ ギヤースアーバード

フィルザバド ~ フfィールrーズアーバード

 以前これらの村が実際どこにあるのか地図で調べる際にはひどく苦労しました。全然違うんですもん。ギヤースアーバードはサルーグ絨毯の産地、フィールーズアーバードはシーラーズ近郊のカシュガイの産地です。

 アーバード آباد というのは「住むに適した」「耕作された」という意味。ギヤース(ギは喉の奥から出す音)やフィールーズは人名です。話すときには「ス」や「ズ」と次の「アー」が繋がって聞こえることもあるので、その部分に限ればあながち間違いではないです。特に「ホラムアーバード」は「ホラマーバード」、「ホセインアーバード」は「ホセイナーバード」と顕著に聞こえます。しかしながらペルシア語の表記上は、「ホセイン」と「アーバード」の間には必ずスペースが入ります。アーバードの「アー」を表す文字  آ は語頭にしか使わないからです。  

バクチアリ ~ バフティヤーリー

 イラン系の絨毯づくりに長けた部族名です。これはやむなしかな。部族名の「バフティヤーリー」は、英語表記だと Bakhtiyari です。しかしながら「kh」に相当するカタカナが無いのです。「kh」はペルシア語の خ を表したもので、これは ハ行の音を鼻の奥から空気を強く出す感じで発音します。ドイツ語の「イッヒ(Ich)」のヒの発音に近いとも言われます。ホラーサーンの「ホ」や、ホイ(タブリーズのマーヒー柄の産地)の「ホ」もこの音になります。そしてこれらを強めに発音した場合、若干カ行に聞こえなくもないからです。

②サイズに関する語句

グハリチェ ~ ガーリーチェ

 これは無いでしょう。英語では ghaliche と表記されますが、gha は「グハ」ではなくて、軽く喉の奥から出す「ガ」を表記したものです。なので日本語では「ガーリーチェ」とするべきです。

 ちなみに語尾に付く「チェ」とは「小さい」を意味します。「ガーリー」は「絨毯」の意味。およそ3×2m以上のものがイメージされます。それより小さいので「ガーリーチェ」と言うわけです。厳密にサイズがこれ位というわけではなく、日本語なら「小さめの絨毯」くらいの意味です。

ザロニム ~ ザルォニーム

ドザール ~ ド・ザルゥまたはド・ザロイー

 「ザル」ないし「ザルゥ」とは長さの単位でおよそ1m強の長さです。「ニーム」は「半分」。間に入っている「ォ」とは「and」の意味。つまり、ザルとニームで長さ1.5mの絨毯というわけです。

 「ド」は数字の「2」のことです。ド・ザルゥで2m強ですね。

 「ザロチャラク」というのも聞いたことがある方がいるかと思います。「チャーラク」とは「四分の一」の意。ですので1m30cm程度の長さの絨毯を指す言葉になります。

③デザインに関する語句

マヒ ~ マーヒー(魚の意味)

ヘラティ ~ ヘラーティー(アフガニスタンの都市ヘラートの意味)

 どちらも同じデザインを指しますが、マーヒーと言うほうが一般的で、普通の人にヘラーティーといっても通じないことが多いようです。

メヘラブ ~ メフラーブ

メヘラビ ~ メフラービー 

 これもどちらも同じ意味ですが、語尾に「イー」が付くことでメヘラーブという名詞が形容詞化して、「メヘラーブの(タイプ)」という意味あいになります。

ゴルダニ ~ ゴルダーニー

 ゴルダーンは花瓶の意味。「ゴルダーニー」で「花瓶の(模様)」となります「ゴルダニ」じゃ響きが悪いですよね。

「ゴルダニサラサリ」も聞いたことがある方がいるかもしれません。「サラサリ」は「サラーサリー」で「全ての」とか「全体の」の意味になります。総柄の花瓶模様のことです。

④工房名

 工房名といっても大抵は苗字です。ペルシア語の人名を読むのは結構難しいです。

ラジャビアン(クム)

セラフィアン(イスファハーン)

ハビビアン(ナーイーン)

 よくある○○○アンさん達。ペルシア語に忠実に読むならばそれぞれ「ラジャビヤーン」「セイラフィヤーン」「ハビービヤーン」となりますがそんなに違和感はありませんし、間違いと言うほどのものではないでしょう。

 逆にこれはチョットな・・・と思うのは

マスミ ~ マアスーミー

 クムのシルクを作るところですね。桑田でも岡田でもないです。

ハギギ ~ ハギーギー

 イスファハーン。ハギーギーの「ギ」はどちらも軽く喉の奥から出す「ギ」ないし「キ」の音です。

 蛇足になりますが、この喉の奥から軽く出す「gh」がクムの「ク」の音になります。英語の表記もゆれていて、Ghom, Qom,Qum,Khom などあり、日本語でも「クム」だったり「ゴム」だったり「コム」だったりします。

ペルシア語では

قم

の二文字です。ق が例の「gh」です。どちらも子音のみの音なので日本語で表記するのが難しいです。だからどれも間違いではなく、それぞれが混ざったような音とも言えます。

 これまで見てきた通り、従来のカタカナペルシア語だとなんだか響きが間抜けな感じに聞こえませんか?これでは「イランは詩の国」なんて言われてもピンと来ません。でも長母音だけでもちゃんと入れるだけで、韻の踏みやすい、柔らかく流れるようなペルシア語の雰囲気に結構近づきます。そして漢語とやまと言葉の関係のように、アラビア語やトルコ語起源の言葉と、古来からのペルシア語を比べると、後者のその響きは日本人の耳にずっと美しく聞こえるのです。

 絨毯関連の語句については、仕方のない部分も多いです。なぜなら、オリエンタル絨毯の研究は欧米が最も盛んで文献が豊富だからです。当のイランでも絨毯についての記述には欧米の文献から引用することが多々あります。

 私は大学で東洋史(中東)を専攻したのですが、ほぼ何も勉強しない非常に不真面目な学生でした。ですが一つ当時のゼミの教授がおっしゃっていたことで記憶に残っていることがあります。

「歴史学なんて手法自体がそもそも西洋人が作ったものだ。つまり歴史というものはあくまで欧米のフィルターを通して研究されたものに過ぎない。だからこそ特に東洋史の分野は原語の文献にあたって、東洋人の視点から考察していかないといけない。これは日本人の研究者としてとても大切なことなんだよ。だから渡辺君、君はウイグル語をやってみないか?」

 当時は「ウイグル語・・・無理。」で終わったわけですが、どういう縁なのかペルシア語を学び、この商売を始めることになった今では、絨毯についてイラン人の見方を直接理解することは、やはり意味のあることだと感じてきています。

 私の場合はもちろん研究といえるようなものには到底及ばない、絨毯関連のペルシア語のホームページやブログをなんとなく斜めに読んでいる程度です。趣味の範囲を超えるものではありません。それでも現地で絨毯について英語を介さずにコミュニケーションがとれると、やはり直接伝わってくるものです。

 ほんとうに少しずつではありますが、ペルシア語で書かれた絨毯関連のサイトなどを日本語にして皆様にご紹介していければと思っています。

#ペルシア語 #文字

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