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  • 執筆者の写真rugsrang

ギャッベの事実

更新日:2023年8月14日


 日本では、手織り絨毯の中で最も人気のあるギャッベ。専門店や家具店など多くのお店で売られています。

 その売り口上も様々で、昔から「それホントかな」と疑問に思っておりました。ギャッベについてお客様にロマンを感じてもらい、満足感を高めるための多少のセールストークは有りでしょう。しかし現実は売らんが為に(さらには高額で)事実を誤認させているとまで言えるレベルで話が盛られているように思います。

 というわけで、現地で見聞きして調べた程度で恐縮なのですが、この記事ではギャッベの実際の所をお伝えしていきたいと思います。



遊牧民が織っている(×)

 現代のファールス州にテント暮らしの遊牧民はほぼ存在しません。ギャッベの生産者は村々に定住して、農業や牧畜業を営んでいます。つまり、農家や畜産農家の兼業です。広告イメージのようにテントで織られているわけではありません。


このように家の一室に織機を置いています

カシュガイ族が織っている(△)

 カシュガイ系だけではなく、ロリ系、旧ハムセ連合系、アラブ系、ペルシア系など、ファールス州全域の村々で、様々なグループの住民が織っています。「族」というと原始的な生活を営むグループを想像してしまいますが、現代のカシュガイ系の人々は車に乗り、スマートフォンを持つ、普通のイラン国民です。



遊牧民の女性が自身の感性で自由に織りなす芸術(×)

 実際は絨毯商による注文に応じて製作されています。写真で色や柄を簡単に指定される場合と、しっかりした方眼の図面を渡される場合とがあります。都市系のペルシャ絨毯と異なり図柄の正確さは求められないので、模様の位置や色などをある程度自由に変えてみたりはします。

 複雑なデザインでなければ、図面無しで記憶に頼って織る事ができますが、「フリーハンドで織り手がデザインする遊牧民の芸術」というのは明らかに事実と異なります。

 絨毯商は指定の素材を織り手に売り、出来あがったギャッベを買い戻します。この流通形態は、ギャッベもイランの他地域の絨毯も大差はありません。


 数百年の昔からペルシャの絨毯はイランの重要な輸出品であり、主な輸出先である西欧の嗜好に少なからず影響を受けながら発展してきました。絨毯デザイナーはユーザーの好みを意識し、「売れる」デザインを模索します。北欧系のシンプルインテリアにマッチする優れたデザインで人気を博すギャッベもまた、ペルシャ絨毯に他なりません。



絨毯商によるギャッベのデザイン見本



家族の幸せを祈りながら織る(×)

 誰しも家族の幸せを祈るのは当たり前です。しかし人手に渡る完全に商用のギャッベにその思いを強く込めるでしょうか。そこで、織っているときに何を考えているか直接聞いてみました。


村のおばさんA「あ~しんどって思ってるに決まってるでしょ。アハハ。」

 ギャッベは水平式の織機で作られます。常に下を向いて織るので腰が痛みます。


村のおばさんB「うーん、特に何も考えていないわね。」

 作業に集中する時は無心になりますよね。


村のお嫁さんC「模様が正確に、きれいに出るように考えながら織っています。」

 模範的な回答。バイヤーも同行していたので気をつかったのかも。


 通常手織り絨毯は、兼業の現金収入です。絨毯を織る家庭は裕福ではない場合が多く、高額な手織り絨毯は作っても自分の家には敷かず、機械織りの絨毯を敷く家がほとんどです。

 イランの絨毯織りたちは、できるだけ早くかつ丁寧に織りあげることで、良い値段で数多く売れたらいいな、と思っています。



全ての模様に意味が込められている(△)

 普遍的なイラン文化において、という広い視点では、糸杉やザクロなどの樹木、生物、その他文様にそれぞれ暗喩が含まれる事は否定しません。ギャッベの使われる文様も伝統的なカシュガイの絨毯に使われたデザインかそれをアレンジしたものを使います。

 しかし、ギャッベの模様ひとつひとつについて、絨毯商のデザイナーは意識する事はあると思いますが、織り手がいちいち文様の意味を考えながら織るものではないでしょう。


 ギャッベでは「幸せの窓」とよく呼ばれる四角形が並んたデザインを、現地では「ヘシュティー」つまり煉瓦やブロック模様と呼称します。「窓柄」とは言いません。この通り、実際はむしろ売る側が考えた「意味」のほうが多いのではないでしょうか。「この色は何を表していて、この模様は織り子のこんな気持ちを表現している」なんていうのは、そのほとんどが購買意欲を高める為の作り話というわけです。ちなみに現地の絨毯商からこの手のセールストークをされたことは一度もありません。


 個人的には、絨毯の文様の年代による変化や、地域・民族による差異や影響といった研究と違い、モチーフはともかくとして、その意味する所は何か、という話にまでなると実証が困難なため想像の域を出ないと考えています。



※ギャッベを織る家の隣家では昔ながらのシーラーズの絨毯が織られていました。デザインは母親から受け継いだものだそう。記憶のみに頼って織られます。


ギャッベの産地、ファールス州の羊毛で織られている(〇)

 パイルのウールはそのほとんどがファールス産です。ウールは春に刈り取るのですが、冬の時期にはファールス産ウールが足りなくなる事もあり、その場合は、コルデスターンやブーシェフルなどイランの他地域から仕入れる場合もあります。

 刈り取られたウールは手紡ぎ(ハンドスプーン)で糸にされます。しかし安価な品では機械で紡がれた糸を用います。素朴さが魅力のギャッベには手紡ぎの糸の太さが均一でないことによる、わずかなムラがよく似合い、非常に美しく映えます。

 織りの細かさに応じて、粗いギャッベには撚りの本数の多い太い糸を、細かなギャッベには細い糸を用います。特に織りの細かな品では、経糸に限りオセアニア産のメリノーウールが使われます。柔らかくて滑りがよいので、細かく結ぶのに適する為です。



全て草木染めである(◎)

 織りのグレードに限らず、ギャッベは全て草木染めのウール(もしくは無染色の原毛)で作られています。100%天然の染色でなければ、ギャッベを名乗ることはできません。


ドイツ産インディゴ。100%輸入の為、通貨安のイランでは最も高くつく染料。
ジャーシールと呼ばれる荒野に生える植物。ナチュラルな黄色がでます。

結びに

 ギャッベに用いられるウールは高品質な部類に属しており、草木染め、かつ手紡ぎの手間暇の掛かった素材です。ギャッベは現代のインテリアによく似合う優れたデザインも含めて素晴らしい手織り絨毯のひとつだと言えるでしょう。


 なお、日本ではさまざまなグレードの呼称で売られているギャッベですが、現地シーラーズのバーザールでは3つのグレードに分かれています。


・ドロシュトバーフ

1cm四方あたり4目以下。粗い織りという意味で、価格も最も安くなります。基本的には取り扱いません。


・ヤラメバーフ

1cm四方あたり5~7目程度。ミディアムクラスになります。なおヤラメ族とは関係ありませんがこう呼ばれます。ヤラメ絨毯と紛らわしいため当店では「ギャッベ」と表記いたします。


・リーズバーフ

1cm四方あたり9~12目以上。細かい織りの意味で、ハイグレード品です。リーズバーフの中でもさらに織りの細かいものもあり、価格は跳ね上がります。当店では「ギャッベ(リーズ)」と表記いたします。


 商品説明は事実のみをシンプルに提示するよう心掛けています。フェアリーテイル代は含まれません。多くの皆様にギャッベを楽しんでいただけるよう、限界まで価格を抑えて販売することをお約束いたします。



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